理論化学会の前身は1997年4月に日本化学会のもとに発足した理論化学研究会であり、2019年に学会化されました。活動の主軸である討論会は1997年に始まり、コロナ禍の厳しい状況を経るなどもありましたが、2026年で28回を数えます。最近では産学あるいは国際交流の活性化を企図するセッションも設けられています。また討論会名称からすると意外かもしれませんが、「理論化学、計算化学、および関連のある実験化学」を主題として掲げており、実験研究に関わる方の参加も大歓迎です。様々なバックグラウンドの研究者が集い、討論し、交流する機会として、会員の方はもちろん会員でない方もご参加下さればと存じます。

さて、本学会へ繋がったもう一つの源流に「理論化学シンポジウム」があります。この歴史はさらに古く1982年8月に塚田捷先生(東大) 細矢治夫先生(お茶大) 中辻博先生(京大) 岩田末廣先生(慶大)がお世話下さり、京都府立ゼミナールハウスで第1回が開催されました。当時はまだ理論化学の討論会がなく、以降2年に1回のペースで定期的な発表・交流の場としての役割も担っていたと理解しています。筆者自身も1990年代半ばから参加し2002年の第11回を担当しました。毎回合宿形式で講演時間も充分確保されていたので、様々な方と知り合いになり、昼夜を問わずにゆっくりと討論できる場でした。本学会ウェブページに詳細な記録を記載しておりますが、毎回の世話人は理論と実験研究者から構成され、講演もいずれの内容も含む幅広い分野をカバーしていました。研究者を取り巻く状況の変化もあって残念ながら2008年の第14回を最後に幕を閉じましたが、当時の理論化学研究会がこれを引き継ぎました。2012年6月1日に理論化学討論会世話人会、理論化学研究会、理論化学シンポジウム現実行委員(当時)、第14回理論化学シンポジウム実行委員の連名で出された「理論化学シンポジウム統合に関するお知らせ」には、「同シンポジウムの活動全般を理論化学討論会・理論化学研究会へ引き継ぎ,統合することを決定しました。理論化学シンポジウムが理論化学の発展に費やしてきた精神や思いを、今後は、理論化学討論会・理論化学研究会が継承致します。」と宣言されています。

昨今の状況を鑑みると、今後の科学および化学分野の発展において「理論化学」の担うべき役割はさらに大きくなるものと信じます。理論化学分野の研究に取り組まれている方はもちろんですが、関連分野の方々にも理論化学への関心を持っていただき、共に協力できるようになることが、当該分野のみならず幅広いより多くの分野の発展にとっても重要と考えます。

本学会への一層のご支援、ご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。

京都大学
工学研究科・福井謙一記念研究センター

佐藤 啓文